クレープなるもの

*クレープ店コラボが可愛かったので……。

 

 熱心なまなざしが鉄板へと注がれる。祐介は鮮やかとしか言いようのない手並みで綺麗なまるい生地を焼き上げた。

「あらかたコツは掴んだ」

 出来あがったクレープは自信たっぷりの言葉に見合った出来だ。とても一朝一夕には見えないが、これは祐介の器用さと美意識のなせる技だろう。

 祐介たちいつものメンバーは何故か揃ってクレープ屋をやることになったと言う。それも、どうも単なるアルバイトではないらしい。一介の高校生がどうして、というのは全くもって謎だが、とにかくそうなのだった。
 理由は謎ではあるものの、それぞれ食材の下拵えをしたり、呼び込みをしたりしている様はなかなか楽しそうだ。その中でも生地を焼く工程はいかにも難しそうで、クレープの出来を左右する大役に思える。さっき見せられた通り、この器用さがあるから任せられたのだろうな。

「いや、いくら祐介でもナマの生地はつまみ食いしないから」

 俺が一人で納得していたところに、杏から訂正が入った。

「失敬な。俺はしっかり耐えていたぞ」

 仲間たちの生温い視線がお気に召さなかったのか、祐介も負けじと反論する。言葉の通り、彼は目の前にある食材の誘惑を必死に耐えたことだろう。ただ、その苦行の様子をずっと見せられる周りはきっと心休まらない。厨房で食欲と理性の間で闘っている祐介を想像するだけの俺でさえそう思うのだから。

 俺は祐介の勤労振りからひとまず目を離すと、屋台の前で往来に愛想を撒いている少年に目を向けた。

「君までいるとはな」
「……どうも」

 明智くんはみんなとお揃いの制服を身に纏い、固まった笑顔のままこちらに会釈をした。このメンバーの中に彼が含まれているのは俺としては少し意外だ。まあ、彼は甘いものが好きだと言っていたし、適任といえば適任か。

「コイツは客寄せパンダだ」

 それきりとくに二の句を告げない明智くんに代わって、双葉が俺の物珍しげな目に答えてくれた。ああ、だから顔が営業スマイルのまま固定されてるのか。やや疲れて見えるあたり、女子組に相当酷使されたのだろう。有名税という言葉もあるが、ちょっと同情する。

「せっかくだから十眞さんにも食べてもらったら?」

 つい注意が逸れたというタイミングで暁が言った。彼も祐介と同じくクレープ焼き係のようだ。喫茶店で見たときとは違うポップなエプロン姿の彼からの提案に、祐介は目をらんらんと大きくしてこちらを見た。

「なにか食べたいものはあるか? なんでも作るぞ」

 と、若干身を乗り出して。
 せっかく気前よく言われても、俺は甘いものはあまり食べないし、シンプルなものでいいんだが……。
 そんな俺の消極的な思考を祐介の期待のこもった視線が引き止める。その目はきらきらを通り越してぎらついてると言えるほどだった。

「じゃあ、おすすめのをくれるか」
「ああ!」

 全ての選択を丸投げすると、大はりきりの声があがった。その場のほぼ全員が見守るなか、彼の手によってクレープの具が盛られていく。アイスがふた掬いとケーキのピースがごてっと盛られたあたりで、杏から「やばっ」と声がもれた。その量はどう見ても薄いクレープ生地には荷が重かったが、俺たちの心配をよそに祐介は奇跡みたいな手際で巻ききってみせた。

「完成したぞ。なかなかの出来だ」
「ありがとう……」

 ずいと目の前に出された会心の作を俺は落とさないように両手で受け取った。クレープとは思えないほどの重みがある。
 ひとまず腰を落ち着けようと、俺はなんとかそれを支えながら手近な椅子へ座った。そのすぐ隣を小走りでやってきた祐介が陣取る。

 アイスが溶けて崩壊する前に少しでも中身を減らさなければならない。真隣で一心に見つめてくる瞳にやや食べづらさを覚えながら、俺は一口目に齧りついた。

「どうだ?」
「ん、甘い」

 大きく存在を主張しているアイスは抹茶とチョコ味だ。手当たり次第に押し込んだだけに見えた他の具も別に喧嘩するような取り合わせのものはない。が、とにかく甘い。そして崩さないように食べ進めていくのはかなり困難を極める。

「十眞、クリームが」

 苦戦している俺に、どこかぼんやりとした目つきで祐介が言った。
 彼の指摘通り、なんとか口に収めようとするあまり口周りを汚していたらしい。目の前で大口開けるのすら気恥ずかしいっていうのに。ごまかすように備え付けのナプキンで雑に拭うのを祐介は名残惜しそうに見送る。

 早々に、一人での攻略は諦めた。物欲しげな顔がすぐ近くでこっちを見ているのだから初めから手はひとつだ。
 差さっていたプラスチックスプーンで掬ったアイスを祐介に差し出すと、途端にその頬に赤みが差した。

「いいのか?」
「むしろ手伝ってもらえると助かる」

 もらったものを突き返すようで悪いかな、と思いはしたが反応を見る限りどうやら問題はないようだ。俺だって美味いとは思うけど、なにしろこんな量の生クリームを食い切る自信がない。

「……ちょうど舐めとりたいと思っていたところだ」

 そうか。たくさん食えよ。
 いつのまにか貰う側に立場が逆転してしまっても祐介は非常にご満悦だ。スプーンから溢れんばかりのクリームや果物たちがぱくぱくなくなっていくのを見るのはいっそ気持ちよく、俺はそれを何度も手ずから与えていた。

 

以下、一部始終を目撃した怪盗団のご意見
「名物にするか。ごてごてクレープ」
「いや、重すぎだろ……」
「いろんな意味でね」